Monday, May 28, 2007

母とわたしの長い歴史

28.may


今年60歳の還暦を迎える母。

今日、電話口で元気そうに
『お母さんね、60歳になるなんて思わんかったよ。まさかね、赤かとば着らんばとやろうか〜、なんかはずかしか〜。』
(60歳になるなんて思わなかったよ。まさか、あの赤いちゃんちゃんこを着なくちゃいけないのかしらね、はずかしいな。の意。)

と、楽しそうに言っていた。

私から見ても母はとてもかわいい人。

そう思えるようになったのは、社会人になってから間もなくのことで、それまではなかなか素直になれない、距離感があった。
お互いに。

私が小学校の高学年になるまで、両親は自営業を営んでいて、なかなか会えなかった。
というのは、
とにかく田舎の、おばあちゃんの家の近くでは商売にならないので実家から離れた場所で会社をやっていたから。

人の良い両親の商売はうまく行っていて、週末にも忙しく仕事で帰って来れずに、1ヶ月に1度週末に会えれば良い方だった。
私は週末の休みの前になると、そわそわして事務所の母に電話した。

『明日は帰ってくると?』

帰ってくると言われれば嬉しいと思い、来ないと言われれば淋しいと思った。
嬉しい時は嬉しいと言うけれど、淋しいときにも『大丈夫!!』と強がる事をこの頃に覚えた。
わがままを言えば困らせてしまうから。小さいながらに心配をかけまいと、頑張っていた気がする。
淋しいと思うとキュ〜っと胸が締め付けられた。

週末に会えても束の間で、また『会社』に戻ってしまう。
行かないで欲しいといつも思っていた。
『今度はいつ来ると?』と親子の会話とは思えないやりとり。

父を支える母の姿はいつも明るかった。かっこいいと思っていた。
喧嘩をしたところを見た事も無いし、愚痴を言っているのを聞いたこともない。
2人はとても仲が良く、子供の私から見ても良い夫婦だなと思っていた。
だから心配かけられないとなおさら思っていた。
大好きだったお父さんとお母さん。

そんな2人が私が5年生の頃、『リコン』する事になった。

子供のわたしにはこの成り行きの訳が分からなかったが、大人の世界の決まり事に従うしか無かった。
その頃の記憶はあまり無い。
別れ際に泣く母をはじめて見て、わたしは泣いちゃいけないと思い我慢したのは覚えている。
このとき私は、世の中は何が起こるかわからないもんだと、妙に冷静に見ていた。


リコンしてから母は実家に戻り、仕事が終わると毎日家に帰ってきた。

これまであまりに離れていた時間が長かったからどう接すればいいのかわからなかった。
あまり理解されないかも知れないけれど、母親との関わり方がわからなかった。
『甘え方』とかがわからない。
ギュッと抱きしめて欲しいときにも近寄れずにいた。
とにかく距離感がわからない。
何となくぎこちない。

母は良く言う、『あんたはいつも反抗的でかわい気がなかった』と。

無邪気に甘えた事は無いし(出来なかった)弱音も吐いた事は無いし、強がってばかりいた。
俗にいう、『反抗期』には特に激しかった。

お母さんが嫌いだったから。

なんでこんな家に生まれてきたんだろうって毎日思い、母を困らせた。
居心地が悪くて、はやく家を出たかった。何度か家出もして周りに迷惑もかけた。

そうする事で気を引きたかったのかも知れない。結局淋しかったんだと思う。
素直に言えないから、反抗的に意思表示してしまっていたのかも、と思う。

『幼い甘え』

この微妙な距離感のまま大学生になってしまった私は、親のありがたみなんてさっぱりわからない、わからないふりをしたアホな学生だった。
何不自由無く育ててくれた事に感謝の念なんて無かった。当たり前だと思っていた。

そんな私に親を大事にする事を教えてくれたのはその頃に出逢った、主人とその家族だった。

初めて彼の実家に遊びにいったときに、家族ってこんなにもあたたかいんだと、初めてのやわらかい家族の空気の感触に涙が出た。
色で言うとオレンジから黄色の淡いグラデーション。とにかく今までに無い強烈な光景だった。まぶしかった。

彼の家族から、お母さんにもっと甘えていいんだとか、素直になるのは恥ずかしくないんだとか、信頼する人の前では強くなくていいんだとか、弱いところもみせていいんだとか、初めての感覚を教わった。

そのころから少しずつ母との関係が変わってきた。
社会人になってお給料をもらうようになり、お金をもらうことって大変なこととか、家族を養うって大変な事とか色々わかって、母の見方もかわった。

今、私は母をとても尊敬している。
いつも明るく、誠実で、本当に人に優しく、誰にでも平等な、そんな母。
強い女性。

素直になれるまで時間がかかりましたが、今ではあなたの娘で本当に良かったと思っています。

還暦のお祝いには、手紙と赤い何かをおくります。

いつまでもかわいいお母さんでいてください。

愛しています。

ありがとう。

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